日本経済新聞、「私見 卓見」への投稿記事

2026年3月26日の日本経済新聞の「私見 卓見」に載りました記事については私が考えたものですので、投稿した文章について公表したいと思います。
現在の遺贈寄付が悪用されていることや一部のあまりに高額な遺言執行報酬の算定方法に一石を投じることができたら幸いです。

近年、「遺贈寄付」という言葉を見聞きする機会が増えている。単身の「おひとり様」や子どものいない夫婦にとって、資産の承継先を自ら選ぶ手段として有効な方法だ。また、遺贈寄付は相続人がいる人にとっても無縁ではない。財産の一部を社会に還元することで、思いやりが次の世代や地域へと循環していく。

相続人不在により国庫に帰属した財産は、2023年度に1000億円を超え、10年で約3倍に増加した。生前に意思を示し、財産の行き先を決める重要性は今後さらに高まるだろう。遺贈寄付の受け皿となるNPO法人や公益団体は、民間では収益化が難しく、行政の手も十分に届かない社会課題に取り組んでいることが多い。寄付が増えれば、より多くの社会的価値を生み出すことができる。

一方で、運用を巡っては懸念もある。身寄りのない高齢者が身元保証や死後事務の提供を受ける過程で、特定の会社や団体に遺贈寄付をする内容の遺言書を、十分な理解や自由意思が担保されないまま作成させられた事例もある。契約の相手方が寄付先となる構造は利益相反の問題をはらみ、遺贈寄付への信頼を損ないかねない。

本来、遺贈寄付は少額でもよく、複数の団体に寄付することも可能だ。その選択肢を高齢期になって初めて知るのでは遅い。若い世代にも周知し、主体的に考える機会を持つことが重要だ。そのためにも、中立的な立場に立つ弁護士や司法書士、行政書士などの士業団体が、セミナーなどを通じて遺言や遺贈寄付について丁寧に伝える場を設ける必要がある。

遺贈寄付を実現する上で欠かせないのが遺言執行者だ。遺言執行者は、家族だけでなく銀行や士業の専門家が選任されることも多いが、報酬体系は必ずしも明確ではない。最低額のみを定め、上限を設けていない例もあり、想定以上に高額となることがある。

この問題に対し、金融機関の業界団体と士業団体が報酬実態の把握と公表を行うことが必要だ。その上で各団体が自主的にガイドラインを策定し、報酬の考え方や説明方法を標準化していくことが望ましい。遺贈寄付をするまでの運用の透明性を高め、信頼を確保していくことが求められている。