時空を越えて−木々高太郎の雑記–55トイレ・アラカルト

◆「センセ わて何ぼ食べてもでまへんねん 目医者にそんなこと言われても」...これは自称歌よみで、目医者、寒川猫持先生の最近作の歌である。自称歌よみの、実にええかげんな歌ではあるが、吾々年配者には何か、身につまされる歌である。

◆何しろ出すと言う事は大変な行事であるから、目医者であろうが医者と言う丈で思わず訴えたのだろう。

◆物事をなすには、舞台装置は欠かせない。便所で一番小さいのは飛行機の便所で、洗面便所が実にコンパクトにセットされている。私はつい何ぼ位かと考えてしまう。先日、新聞で戦闘機の搭乗者の座席風防の強化ガラスが、八百五十万円と書いてあったから、それに比べると、二千万円位はかかるものではないかと思われる。

◆小さい便所の事を言えば次に大きい便所と言う事になるが、川越市の喜多院に残っている徳川家光のは二畳敷であった。二畳の便所は広い様だが、言い伝えに依ると武田信玄の便所は六畳であったと言う。狭いと事の途中で刺客に襲われたとき刀を振り廻せないからと言う。まあ仲々大変だった様である。

◆吾々庶民が、手軽に使えて大きいのは京都の吉田山荘のである。此処は旧伏見宮別邸であっただけに、縦長四畳の間に洋便器があり控えの間つき。何とも恐れ多い便所である。

◆妹尾河童著「トイレまんだら」には有名人の特色あるトイレが絵入りで掲載されている。かの「まつぴら君」等で有名な漫画家加藤芳朗さんの場合、「その事は一日のバロメーターになっているので、あだやおろそかに出来ない。朝食後トイレの中で産経、朝日、世界日報、報知、スポニチと新聞を五紙読んで機を待つ」。時には湯呑みでお茶も持ち込んでいる。中の棚には「四季の味」なんて料理本があり、ある場合は目で食べ乍ら出しているのではないか。

◆次に女流作家の佐藤愛子さんは閉所恐怖症である。自宅の二階の便所は座ると洗面所を経て、向こうの廊下の壁迄三・五米である。戸を開け放して、鼻先をひらけて行事をやらないと逆上してしまうというのだから大変である。だから佐藤さんは飛行機には先ず乗らない。小さな便所嫌いだからである。

◆先日新聞の「育児父さん成長日記ベビーベッド」副題“男性用トイレにも欲しい“というエッセイに『幼児を連れて外出した時はオムツの取替へ場所に困る。駅や公園のベンチも具合悪いし、デパートの女性便所のベビーベッドを使いに入って行けない』、この人の言い分ではデパートの広告の隅にでも男性用のトイレにも、ベビーベッド完備なんて載せてくれれば、安心して買い物に行けると言うのだから、先ず日本も平和である。