時空を超えてー春男の雑記ー 78 壷中の天(こちゅうのてん)

◆地下鉄の中吊り、あれは楽しいもので、週間誌の題目を順に読んでいたら、それだけで買わなくても済む。あの集約されたアッピール度の強烈な題目に勝る様な記事には先ずお目にかからない、閑話休題。

◆最近かかっていたのにミホ・ミュージアムがある。なんでも新興宗教と言う事で余り良く知らないので、間違っていたら申し訳ないが、滋賀県の信楽にあるのだ。そしてミホ・ミュージーアムの名前で信楽の壺の展覧会をやると言う。成程ポスターの銘「壷中の天」、こいつは素晴らしい。が、いくら素晴らしいと言い立てても、私如き浅学菲才には、紙面でその素晴らしさは表現出来ない。唯この「壷中の天」と言う銘が気にかかるので調べて見た。

◆広辞苑に依れば後漢の頃というから今から一千年一寸前、都の大梁で役人をしていた費長房は、夕方定時退庁すると、毎日判で押した様に城外れの市場の中を通り抜けて家路を急いでいた。ふと見ると、市場の中の薬売りの老人が店を仕舞うと店頭にかけていた壺の中へ入ろうとしているではないか。一寸、一寸と老人に頼み込んで老人
と一緒に壺の中へ入れてもらった。そこには立派な家があり、美味しい酒に御馳走をもてなされ、一緒に飲み楽しい一時を過ごして出て来たと言う。(漢書)

◆気の合った者同士が盃を酌み交わせば、安物の居酒屋でも金殿玉楼であり、鮟肝と湯豆腐が佳肴なのだ。長堀の私の尊敬するK氏は、事毎に、今皆が悪い悪いと言っても昭和十年前後はこんなものでなかった。今はゼイタクですと何時も言う。

◆日経の「ニュース複眼」から拾えば、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊名誉会長の名言がある。「そもそも客は買わない。問屋は卸さない。銀行は貸さない」。このないないづくしが商売の原点だと言う。要は商売とは儲からないものだと言っているのだ。そして儲けたその中でやりくりするしか方法がないと言っている。

◆今回合併したメガバンクは、高金利で堅い処へしか貸さないと言う方針を打ち出している。そして産業界とどう言う風にかかわるかと言えば、買わない消費者を、新商品サービスでどれだけ動かせるか、それに成功した企業には銀行が門前市をなすだろうと言っている。

◆ここに格言がある。「銀行は天気の日に傘を貸すが、雨の日に取り上げる」今思い出せば、戦前は、どこも手形等は振り出していなかった、家庭内の見合いの話等で、どこそこの誰かさんは銀行へ勤めてはるんやが、月給は安いけど、人間は真面目やし、間違いないんと違うかなんて話をよく聞いたものだが、元頭取経験者が恥ずかしくもなく刑務所にほり込まれ、何億と言う退職金の返還を求められている。その残党が、合併して強くなれば何を言うても良いと思っている。そこにあるのは又ぞろ繰り返しだけだ。

(平成11年9月20日)