時空を超えてー春男の雑記ー120 「もうがんばらない」
◆岩手県滝沢村でのタウンミーティングで、住民から次のような意見が出た。「我々は低成長でもいいんです。わが岩手の様に『もうがんばりません』という県があっても良いでしょう」と言うのである。今年の一月に岩手県はキャンペーン「がんばらない宣言いわて」を始めた。経済発展一辺倒ではなく、人間的に生きようと言う狙い(岩手県広報課)なのだ。21世紀のテーゼは色々ある。小泉改革は弱者に、より重く痛みがかからないか。我々はそのようなものに無理について行って、痛みを押し付けられるより、頑張らないのも一つの選択ではないか。
◆そこで岩手県は何を言おうとしているのか県庁の広報課より送って貰った二十一世紀に対する提言を読むと「より人間的に、よりナチュラルに、素顔のまま新世紀を歩き始めましょう。例えば森林を開発して建物を建てようとした場合、岩手ではコンクリートのビルは建てない。環境にやさしい木造の家を建てる。そんな共生の意識こそが岩手県の『がんばらない』なのです」と言う主張である。
◆以上は今年の正月に岩手県が謳い上げた二十一世紀への県のテーゼである。それから半年を経った今、岩手県を弱い県と言えば語弊があるが、トヨタや三菱重工を擁する愛知県等とは比べるべきもないし、危機感を共有する事は出来ない。弱く競争力を持たない県の絶対的な生き残りの選択肢が「がんばらない」になってきたのである。
◆今西長堀通りと御堂筋の交差点前の新橋を中心に世界のブランド店の王者が軒を並べて出店しだした。正に様変わりである。世は不景気をよそに高級ブランド品が売れに売れている。東京の銀座にフランスのエルメスが開店した時に、若いOLが千人近く並び、五十万円はするバッグが百個以上売れたと言う。
◆我々男性に一番身近なのはトヨタ自動車が今春十年ぶりに全面改装して発売したオープンカー「ソアラ」で、六百万円と値が張るにも拘らず発売から二ヶ月足らずで受注残が二千台を超えた。尚業界関係者が驚くのは現金の一括払いで購入する客の多さだ。九割の客が現金で買うと言う。そして購入者の半数は四、五十歳代だそうだ。
◆一方、低価格の旗頭はユニクロである。ズボン・シャツの平均価格が千五百円である。先日の新聞で、牛丼の吉野家が二百八十円合戦に突入すると報じていた。他のメーカーは既に二百八十円であるから一段下へ転げ落ちるのであろう。完全な二極化と言っているが、私はブランド物の五十万円もするバッグとユニクロのスポーツシャツとは関連性は無いように思う。二百八十円の牛丼とも関係は無い。物を値打ち以上に売る。或いは値打ち以下に競い合って売る、つまりは自分も食わにゃ他人にも食わせない商法は、一時いくら栄えてもそれは仇花で、先は見えている。それはそれで私達と関係の無い所でいくらでも競争したらよい事で、私は私流に考える。
◆そこで一番合った言葉は「もうがんばりませんイズム」ではなかろうか。これが処世術として一番自分を守りやすい様に思う。要は人は人、自分は自分の安全パイをしっかり持って、ガードを堅くして嵐が過ぎるまで、四五年は待つしか仕方ないのではないか。
(平成13年7月20日)

