時空を超えてー春男の雑記ー121 現代百物語
◆ある人に尋ねられた。「あんた旅館の部屋に入って床の間の軸の後の壁見た事ある?」「いいやそんなとこ見た事ない。何があるの?」彼の言うのには、何処の旅館も、いわくありの部屋では南無阿弥陀と書いた紙が張ってあるとの事。どうぞ皆さんも旅の楽しみの一つとしてこれからは気をつけて見て下さい。実はこの間から現代百物語を読んでいる。木原浩勝・中山市朗両先生ご執筆の「新耳袋ー第六夜」で之は面白い。
◆伊豆で映画の撮影がありその打ち上げの夜、主演の女優Aさんの部屋から電話が掛かった。「すぐに私の部屋に来て」「どうしたの?」「今ドアの前に人が立っている」「だれが?」「解んない。ドアの下の隙間から足の指先が見えてるの。」おっとり刀で駆けつけたが勿論誰もいる筈は無い。Aさんは誰か分からない人の足の指先だけを鮮明に見て記憶しているのである。この百物語の主役は音。次いで腕の順で、足が一、ニ出てくるのは如何にも現代的であるが、足に驚いていてはいけない。今や百物語も携帯電話の時代となってきた。
◆三日程前、T君は友達のマンションに遊びに行った。会話がはずんでいる時何処からか、か細い女の声で「もしもし、もしもし」と聞こえてきた。初めは無視していたが、何辺もつづくと放ってもおけない。「おい、誰かもしもし言うてないか」とT君が尋ねると、友達も「お前も聞こえるか?こんな初めてや・・・・」と完全にビビっている。窓を開けて見るが誰も居ない。変だなぁと二人で首をひねっていると矢張り「もしもし」と言う声がする。部屋の中でしている様で、一体誰が何処で言っているのだろうと気味が悪くなってきたところへ、T君の携帯電話が鳴った。着信の番号が表示されていない。さっきの妙な声のせいで出るのがなんだか怖い。そうしている間に留守電モードに切り替わった。「こここれ聞いて!」とT君は私の耳に携帯電話を近づけた。それには「もしもしもしもし」を繰り返す女の声が録音されていた。この声は、このしゃべり方は先程からのあの女なのだ。確かにあの女の声で、もしもし、もしもしを繰り返している・・・。
◆夕方、C子は自宅でテレビを見ていると携帯電話が鳴った。取って見ると、お母さんの名前が表示されている。お母さんは直ぐ後の台所でさっきから夕食の支度をしている。その後姿も見えている。不思議に思いながらも「はい、もしもし」と電話にでた。「・・・・・・・」誰かが電話口にいるのは確かだ。無言で押し黙ったような気配がある。「もしもし、誰れ?おかあさん?」「・・・・・・」プーと電話は切れた。「なに?呼んだ?」とお母さんが台所から顔を出した。「お母さん、今私の携帯に電話した?」「何言うてんの。私ずっとここにいるやんか。呼んだ方が早いがな」「そうやねぇ。お母さん携帯何処に置いてるの?」「そこのテーブルの上に無い?」C子はぎょっとした。目の前のテーブルにお母さんの携帯電話がある。手にした自分の携帯の着信記録を確かめ、お母さんの携帯の発信記録を見た「うそや!」C子は叫んだ。たった今、お母さんはC子に電話をしていた・・・・。
◆ドアの下に生足の指を見せた幽霊、霊感で乱れ飛ぶ携帯電話、それに勝手に機関砲を撃ち始めるF14戦闘機・・・・、ミステリーは続きます。まさに現代版の百物語です。
(平成13年8月5日)

