時空を超えてー春男の雑記ー123 国手はどこへ行く

◆井上国手は私の方で家庭医としてお付き合い願っているのだが、この医院の良い処は何時もおひまで、なんでも話が出来ると言う事である。国は年々増える膨大な医療費に往生しているが、ここらの先生に「働いても働いても税金にもっていかれるから、余り無理をせんとぼつぼつやっています」と言う。

◆手許の朝日新聞に離島の老人医療と闘う塩月医師の話が出ている。瀬戸内海の栗島は香川県西部の海上4kmにあり、人口四百人で島民の六割以上が65歳を過ぎている。ここで医師を45年やっていれば大抵の人の事はよくわかっている。風邪を引いた近所の雑貨屋の主人が「明日誕生日や。これで死ねれば言う事ないのに」とやって来たが、「誰かて風邪で死ねたら苦労は無い」と笑い飛ばす。島の人なら顔を見れば様子が分かるらしい。45年の間に近くの島へ往診に乗るモーターボートは11台買い替えたと言う。

◆後継者が見つからないまま半世紀が過ぎた。島の人口は十分の一近くに減った。「今の高齢者医療についての改革議論は遠い雷の様に聞こえる」と言う。「何故か如何に金を削らんかの話合いばかりだから、どんな医療体制を築き、どんな福祉国家をつくるのか、将来像を示さないまま『痛み』だけ求められても納得出来るわけが無い」。塩月医師の現場の声である。

◆一方患者の方から言うとどんな事になるのか。医者通、薬通の友人は、「あんたみたいに薬を長年飲んでいたら、腹の中は薬のカスが溜まってヘドロみたいになってんのと違うか?どうせ胃も悪いやろ。」と言うてる事が当たっているだけに嫌になる。またMと言う芸術家の友人がいるが、何故芸術家かと言うと、先ず作品が売れない。故に何時も貧乏である。これは芸術家の必須条件らしいがこのMは、神経質で睡眠薬のハルシオンを常用している。医者もこれは高価だからそうそうは出せないと言う。処が以前朝日新聞で「西欧諸国ではこの薬は認可されていない。最終的にはガンになる可能性が高い」と医療ビジランスセンターの浜六郎先生がのたまわっていた。

◆ガンになるやも知れないと言う言葉は我々素人には説得力がある。同先生は記事の中で、コレステロールについても八尾市のデーターを基に論じている。血液検査等で上は220が正常と言う事で私は何時も230なので何か一言言われていたが、データーによると260から280が高年齢まで生きられてガンに罹りにくいそうである。

◆昔、阪大の医長さんに知人を連れて診てもらいに行った事がある。12時半頃になって一般の外来の人が帰った後、威厳に満ちた婦長さんらしき人が、先触れでやって来てその辺りをすべて点検する。程なくはるか向こうの廊下をやって来たのは医長先生で、その後にはインターンや若い医師が廊下一杯について来るのである。こんな立派な先生に診て貰ったら、中途半端な病気はみな治るのではないかと思った。

◆だが今や時代は変わり、名医や良い病院を探している人も当然いるが、今の医療は名医をつくる事を目的としていないと言う。つまり、医者の見立てより医療機関の方が信頼出来る時代と言うか、信頼しなければ仕方が無い時代が来たようである。長生きも知恵の内、仲々大変な様である。

(平成13年9月5日)