時空を超えてー春男の雑記ー94 宋襄の仁

◆春秋時代、宋の襄公は楚との戦いで、宋の公子目夷が、楚の大軍が河を渡ろうとしている今、之を討ち取るべきだと主張するのを許さない。襄公は「君子は人の困っている時は苦しめてはならない」と、河を軍勢が半分渡った時に之を討てば容易に勝てると言う目夷の意見を聞かなかった。そして楚軍の全員が渡河を終え、陣容を立て直してからそれではと戦って、宋軍は大敗するのである。孫子の兵法では宋襄の仁として「無用の情、時宜を得ない憐は必ず身を亡ぼす故、孔子の仁とか道は程々にすべきだ」と言っているのだが、世間一般に話として通りの良いのは、河を渡るまで待ってやる事の様で、ここで襄公が敗れるので話がおかしくなるのだ。

◆実は政府が之をやっているのだ。例の中小企業特別融資金の話である。一昨日の秋から始められた総額は三十兆円となっている。倒産した場合は、国庫金80%、銀行20%責任を持つとなっている。商業の場合は、運転資金として五千万円迄であるがその後の状況を見ると、東京はいざ知らず、大阪のこの異常なまでの不景気では、元利の返済は容易な事は容易な事ではないだろう。私が今ここで一番気になるのは、これまで銀行が貸した金の担保が、この資金を利用して差し替えられたのではないかと言う事である。価格の下落した不動産、家族名義の定期預金等がこの資金の借入に依って出来た法人名義の定期預金に差し替えられたのではないかと思う。

◆今一つの問題点は、サバイバルゲームでボツボツ勝負がついてきて、ギブアップしかけた人達に政府が資金をバラ撒き出したのである。社会構造が変わって来ているのだから、いくら景気が良くなっても、構造不況業種は何分の一しか生き残れないのである。それなのにこの様な延命策と言うか何の目標も無い資金をばら撒いたら、全員共倒れになるのは輪を持たない。それよりも預金利子を上げるべきだ。年寄りは預金の元金を使うのは嫌がるが利子なら使う・・・とこれは爺さん婆さんオバタリヤン皆さん言っている。尤もおえらい人の奥さん達は言わないかも知れない。

◆最近「付き合いたくない大企業」と言う見出しで、日経の経済気象台紙つぶて氏は次の様に言っている。『見積もりを集めてその一番安い処へ発注するのなら話は分かるが能力的に安心の出来る処へ「A社やB社から、こんな安い見積りが出ていますがお宅がやってくれるならお宅に・・・」と言ってくる。何しろ不景気な時代だから、そんな安い処があるのならどうぞそちらでとも言えない。然し物には限度がある。そうしたやり方に中小企業はすっかり疲れている。そして「あそこの仕事はしない方が良い」と名指しをされる大企業が幾つかある。その中には戦後日本を代表する世界的有名メーカーも入っている』と言う。その名は大阪の人なら皆知っている。

(平成12年6月5日)