時空を超えてー木々高太郎の雑記ー④やすみのあさ

◆日曜日は朝が遅い。牛乳とパンを食べ終わると九時を過ぎている。する事もないのでついテレビを見る。教育テレビの日曜美術館で伝統工芸展の入賞作品をうつしている。

◆作家の青野氏が探訪している。陶芸家の久田氏の窯変油滴天目茶碗の図案化されたのが出ている。時代も進んだものだと思う。偶然の所産としか捉えようのない窯変を自在に絵描き出す技術は素晴らしい。

◆天目茶碗と言えば、中之島の安宅コレクションの国宝の油滴天目茶碗を思い出す。その名品が時代の権力者から次へと変転極まりなく流れていく異状さ、そのたくましさは、私達にいろんな事を示唆している様だ。

◆次に草木染めの土谷氏の作品が出る。広げられた文様は清流を群をなして上る鮎を思わせる。アップになるとその柄は絣の様だが全体像は清流を整然とのぼる鮎を浮かび出している。イビ川の清流に佇む作家は、気候を一番感じさせるのは川の流れではないかと語る。夏の流れからいつしか秋の流れに変わっていく。そして夕暮れの景色が一番良いとも云っている。大阪市内に住む我々はこう云う話を聞くにつけ、あの風情のある川の殆どが埋められ、川岸の石垣に柳の木といった風景が街の中心部では見られないのを残念に思う。

◆続けて土谷氏は「秋が深まり冬になると川は墨色になり、ああ冬だなと思う」と云っている。彼は詩人だ。それにカメラがこの川の流れを実に素晴らしく捕え、川の広さ、流れが川筋として見事に表現されていた。

◆工芸展の画面は「竹細工」に移った。竹も昨今は本当に良いものがないとの事だった。そして竹も草木染と同様に、色の定着が大変で退色を嫌うため色止めに苦心するそうである。先年、京都の千利休展で見た達磨炭篭を思い比べ乍ら、作者の制作の思いを聞いていた。

◆その人は耳の聞こえない人だったが、作品は使える物をと心掛け、使える品ということが第一だと語っている。之は本当に大切な事と思う。昨今の展覧会作品の大作と称するあの大きな物は、どこへ持っていくのかてんとわからない。

(平成8年10月25日)