時空を超えてー木々高太郎の雑記ー⑤おいせさん

◆光の神を産んだイザナミノ尊は死んでしまう。出雲の山奥へ葬るが、日と共に益々忘れかねた夫であるイザナギは、はるばる黄泉の国へ逢いに行く。しぶるイザナギを説き伏せ、又この世へ帰ってくる事を同意させたまでは良かったのだが、真っ暗で懐しい顔が見えないので火をともすと、そこに二目と見られない半分爛れたイザナミがいた。驚いたイザナギは一目散に逃げる。男の薄情に怒り狂ったイザナミと黄泉の国の兵共が追いかける。イザナギは持っていた物を投げ捨て命からがら黄泉比良坂をかけ下り、坂の下の桃の実を投げてどうにか助かった。

◆日向の国にたどり着いたイザナミは、清いせせらぎでヤレヤレと汚れた身を洗う。そして左の目を洗うと天照大神、右の目から月読命、鼻から須佐之男命が出てくる。住吉さんの筒男三神もこの時生まれ出たのである。

◆東京のブリジストン美術館には明治時代の画家青木繁が神話シリーズとして描いた”よもつひらさか”それに海彦、山彦の物語に依る”わだつみいろこの宮”がある。三十年位前に見たのが大変印象深い絵だった。

◆お伊勢さんは年経た杉の大木と、この様な神話につつまれた大変日本的なと云うより、大方の日本人好みの一つの場所の様だ。神話の里と云うかお祀りしてあるのは天照大神だから・・・。

◆そして江戸時代がら四百年位の間、一般庶民の信仰を集めている。楽しみの少なかった昔の人は生活の知恵としてお伊勢さんを利用して講を結んだ。その頃は人が集ることを大変厳しく制約していたが”講”という形で集り、旅をして皆が楽しんでいた様だ。

◆伊勢の近くに古市の遊廓油屋で起きた殺人事件は、早速芝居の「伊勢音頭恋の寝刀」と云う芸題で一世を風靡した。

◆木材業界でも毎年十一月に、お伊勢参りが行われている。
何人のおわしますかは
知らねども
かたじけなさに
涙流るる
とここまで言うと一寸大層だが、秋の一日を伊勢路の旅も良いのではないかと思う昨今である。

(平成8年11月5日)