時空を超えてー木々高太郎の雑記ー㊻ 風蕭蕭として易水寒し

「蛸壷や儚き夢を夏の月」
蛸漁は、ロープに沢山の素焼の壺をくくり付け、海底に沈めておき、一晩置いてから引き上げるのだが、さっさと逃げ出せば助かるものを、蛸は壺の中で身を縮めて、底にしがみ付いているものだからまんまとやられてしまうのだ。

◆今、吾々儚き夢を見た人達の周りは大ゆれにゆれている。今私達の居る処は安全な隠れ家であるのか、或いは一網打尽に捕獲されてしまう蛸壷なのか誰にもわからない。時は流れ、新しい体制へ移っていくのであろうか。考えられる前例は炭屋、氷屋、米屋等である。今、米に関して云うと、生産者の農家から末端の販売店まで、誰も儲けてはいないと言う珍しい商品である。
都市に於いては、小売店は成り立たず、スーパー等の量販店、或いは最近はガソリンスタンドで一流銘柄を半値で売っている。どうなっているのか判らないが、要はそこでついでに売っているということか。

◆目玉商品、おとり商品が米であるから、個人の米屋が成り立つ筈がない。それでも米は各家庭で多い少ないの差はあっても毎日消費されているが、これが、木材の場合はどうなのだろうか。

◆都会に於いては建築の様式が変わってしまった。阪神大震災の復興住宅は大方がプレハブである。基礎の枠組みと土台の一等材位しか注文は無かった様だ。本当に変わっていくのか、又何時か在来工法に戻るのか、この点に大きい会社と小さい店も思い悩んでいる。

◆世の中の変化を得心する迄に大体五年かかると言う。店主が変化を感じるのは、顕著な売り上げの減少が現れた時である。然し同業者の皆様がそうなんだからとか、得意先の主人が死んだからとか色々な事情を付けて三年位は自分で納得して、店を続ける。そしてその間に打てる手は全部打つのだが、四年五年となり、どうにもならなくなってしまい、始めて「之は世の中が変わったのだ」「もう昔の様な事は二度とないのだ」と悟るのである。

◆辛坊しておれば土地は又元の値に戻るだろうと言うのが大方の人の考えであったが、5年経ってもむしろ益々下がる傾向なので、今度は何時もと様子が違うと腰を上げた様だ。

◆然し私も含め皆様も矢張り現状維持が一番良いのである。これも決して間違った選択ではないのだが、決まったパイを価格破壊と云う低価格競争、次に流通経路を破壊して取り合うのだからどうにもならない。かつて池田首相は貧乏人は麦を喰えと言った。そうだここで吾々弱小業者は麦飯を喰ったら良いのだ。リストラをして始末するより勝ち残れない。それをする人は強いのだ。

◆昨今流通業者では大きい処からぐらぐらし出した。貴方も1日も早く麦食にしなさい。それが生き残れる唯一の道です。そして自分の体がすっぽり入る蛸壷を掘る事だ。重火器を持たない歩兵がソ連の巨大な45トン戦車と戦えたのは蛸壷のお陰である。吾々も日常戦争をしているのだ。先ず身を守りましょう。

(平成10年5月20日)