時空を超えてー春男の雑記ー74 七不思議
◆氷が一面にはりつめた田んぼには、足が凍りついてどうにも動きのとれない鴨がなんぼでもいるではないか、男は片っぱしから鎌でざくざく鴨の足を刈り出した。そして首を帯へはさんでいった。処が突然鴨がバタバタと一斉に羽ばたき出したのでアレヨアレヨと云う間に男も一緒に大空高く飛び上っていった。そしてやっと止まった処はよくよく見れば天王寺さんの五重の塔のてっぺんであった。
◆これは落語の世界の「天王寺さん」で、実に楽しい話であり、人々の中にとけ込んだ天王寺さんであった。昔の天王寺さんは聖徳太子という雲の上の人が建てた寺であるが、浪速の人々は、自分達の寺として、信仰と尊敬を集めていたから自然と七不思議なんて云われる色々な伝説が出てくるのである。
◆現代版七不思議の多いのは小・中学校で①便所②理科教室③音楽教室に集約されている様だ。すすり泣きが聞こえる。
上から白いものが下ってくる。冷たい手がお尻をさわった等と云う事になる。理科教室で人体の模型が夜中に踊り、音楽教室のピアノが誰もいないのに鳴るなんてことが平均的なところだが、天王寺さんの七不思議は、お寺に対する絶対的な畏敬からきている様だ。
◆一番初めに昔から宝塔と云われた五重の塔の塔盤の謎がある。その塔の基盤、印度の須弥山(帝釈天のおられる聖地)は四つの島に取り囲まれ、人々はこの島に住んでいるのだが、ここでは最上の金がとれる。聖徳太子はこの金一千両を以て天王寺の五重の塔の露盤に埋め込まれた。そして末代までの塔の繁栄を祈られ、更に御朱印を十二ヶ押した願文を仏に捧げられた。その金の輝きに依って仏法の興亡を卜されたと言う。
◆次に亀井の水が語られている。これは故人の戒名を書いた経木を西の鐘楼で回向をしてもらうと皆亀井の井戸に投げ入れ、故人の冥福を祈り極楽迄送ってもらうのだが、この亀井の水は、之も天竺より龍王に依って銀の樋で龍宮城を通って、天王寺の亀の井まで送られてくると言うのだから気宇壮大な話である。
◆この事からすると、お水取で有名な奈良二月堂の水は福井県の若狭より流れてくると言うのだから比較的上品な話で真実味
があるが、天王寺さんの亀の井の様に、印度から龍宮そして亀の井へ来る、それも銀の樋を通ってなると一寸荒っぽい感じがする。然し民衆は、天竺、龍宮と知った処の名前が出てくる方が有難いのである。人々はこの話を信じ、お釈迦さんの話を聞けるこの場所天王寺こそこの世の極楽だと云う事を信じて集まった。
以上三題話の様になったが漫才のこだま・ひびきじゃないが、”そんな事ないでぇ”と言えばそれでおしまい・・・・。でも皆さん一瞬でも信じて下さい・
(平成11年7月20日)