時空を超えて−春男の雑記−82 おもしろうてやがて悲しき

◆「おもしろうてやがて悲しき祭かな」美空ひばりのお祭りマンボではないが、家を焼かれたおじさんと、へそくり取られたおばさん夫々が秋の色濃く陽の落ちるのが早くなれば、結末を迫られるのである。お祭りを上手く踊りぬけた人、火傷をした人、唯呆然とプラットホームで急行の通り過ぎるのを見送っていた人、人夫々の生き様は多様である。そしてここに「歓楽極りて哀情多し」という事になる。

◆今年程勝ち組負け組がはっきりした年はない。吾々の隣近所の各種小売屋さんは全敗である。一週間四十時間労働なんてアンケートに記入している間に、御近所でトントン金槌の音と共に新装開店が出てくる。手軽な食料品を主力にやっているのだがなんとこれ等の店は24時間休みなしである。これではとても歯が立たない。人間寝んと働けるもんか、そのうちへたるだろうと思っていたら、へたるのはこっちで、向こうの方ではドンドン数が増えてゆくのだからかなわない。

◆今月はじめ頃より新聞の株式欄を見ていたら何か変だ。大部分は値下がりを示す黒色で、値上がりの白色は一部の処は固まっていて遮二無二毎日一本調子に値上がりするのである。殆どカタカナで何をやっている会社か分からない。

◆只私が知っているのは、半年位前、NTTの子会社であるNTTドコモの発売価格は百四十万円だった。この不景気にいささか高値であると思って買わないでいたらこの株が、四倍増資それも無償で今や一株三百万円になろうとしている。本当に嫌になると言うか金儲の下手な男だと自分で自分が情けない。どうも私の常識は株界の非常識、株界の常識は私の非常識なんだろう。

◆私の友人で株にドップリ首までつかっている先生に、三顧の礼を以って尋ねて見た。「そうなんです。株屋はそんな上がらない株はいくらでも売ってしもうて上る株に乗り換えよとうるさく朝に晩に電話してくる。それが今の処では買えば上るんですわ。何してる会社かなんて事は聞いても分かりませんし、株屋がこれ行きなはれと言うのを買うだけですわ」との事。ヤレヤレこれこそ完全に十年前のバブルと同じではないか。

◆「木に依って魚を求む」と言う諺がある。魚を獲ろうと思えば海か川へ行かねば獲れない。金儲けも又、株に依って金を求むるのは無理なのかも知れない。勝ち馬に付くのは勝負事の鉄則ではあるが、過熱気味と言うか余りにも大アツアツな一部の値上がり株は、冷静な判断能力なんてものは糞くらえで、何もかもなぐりすてて、素っ裸で飛び込んでいく人が勝つ様であるが、「おもしろうてやがて悲しき祭かな」になり兼ねないと思うのは臆病者の負け惜しみであろうか。

(平成11年12月5日)